シューマン「子どもの情景」

シューマンのピアノ曲集「子どもの情景」の演奏に、
詩の朗読とイラストが加わります。

イラスト:村上佳子

詩:やまなし さぶろう

そこから そこへ

 

あなたは 見知らぬ国を持っていますか

あなたは 見知らぬ人を憶えていますか

見知らぬ場所から 見知らぬ場所へ

これは ローベルト・アレクサンダー・シューマンという

昔の詩人の どこでもなく 誰でもない

子どもの物語です 

 

 

見知らぬ国から

 

あなたは、魚の言葉を聞かれたことがありますか。

南の海の岩の下に、キヤササという小さな魚がいます。

この魚は、仲間とひそひそ話をし、

体を上下に揺らして笑ったりします。

大きなサメがやって来ると、 叫び声を上げて仲間に危険を知らせた後、 海面から垂直に飛び出します。

そこを漁師は狙っていて、

わしづかみにして船の中に放りこみます。

そうなったらもう、この魚は話をしません。

言葉を持つと知られると、働かされてしまうから

黙っているのです。

ですから、 キヤササの言葉を聞いた人は誰もいません。

ただ、海の中で笑いさざめく姿ばかりが

人間のうらやむ楽園なのです。

 

 ♪珍しいお話

鬼ごっこ

 

わたしたちに懐かしく思い出されるのは、 振り返って笑う友だちの顔です。

 

追いかけて捕まえようと息を切らす時、 いつまでも追いかけて 追いかけられたいわたしたちです。

その時二人はげらげら笑って げらげら笑いながら走り続けます。

小さな足がぺたぺた鳴って 声ばかりが大きくなります。

 

追いかけて 追いかけられて そうして世界は巻き取られていき ぱたんと扉を閉じるような音がします。

何も残らず 風だけが吹き抜けます。   ♪鬼ごっこ

 

自分たちだけの物に 自分はいます

何もかもなくなったら 自分たちだけの物を作り直しましょう

たとえそれが どれほどささやかであっても

自分だけの物は わたしたちを助けてくれます

涙をためる子どもの眼には、

人間の大切なものが あふれているのかもしれません

 

 

 ♪おねだりする子ども

 

形のあるものと形のないもの

みなさんは どちらがお好きですか

作られていくものと漂うもの

柱を立てていくものと 横すべりしていくもの

 

やがて記憶は 幻を見せます。

 

 ♪幸せいっぱい

 ♪重大事件

 ♪トロイメライ

 

火の踊りを見て下さい

火の軽やかなステップを

 

パチ

 

パチ

 

パチ

 

ザッ

 

パチ

 

パチ

      暖炉のそばで

                      

子どもの頃

 

子どもの頃に何をしましたか

 

一生けんめいすぎて あきっぽくありませんでしたか

 

子どもの10分は 大人の1時間分はあります

子どもの世界は 大人よりも華やかです

万華鏡の明るさは 子どもの目の映す明るさです

それを手の中に納めて そのままにしておくなんて

もったいない

とてももったいない

 

子どもの頃に何をしましたか 

              ♪お馬の騎士 

              ♪けっこう真剣に  

              ♪怖がらせ

寝顔

 

太陽がこぼれおちてきたような あなたの寝顔

毛羽立った毛布の中で

ぬくぬくした寝顔

目をこすって

まぶしそうにして

お口をむにゅむにゅさせて

微笑んで

健やかな寝息を奏でながら

笑い声をあげ

あったかーいおててに

どたばたあんよ

もうすぐ起きそうで 起きてほしくない

でも起きてくれたら 今抱きしめてあげられる
起きてほしいけど 起きてほしくない

あなたの寝付く時の あのぜいたくな気持ちを

もっともっと抱きしめていたい       ♪おねむの子ども

言葉

 

ぽろぽろとこぼれおちて

シャボン玉のように消えてゆき

でもいつまでも残って

扉を開けるのが言葉

口に出せばはかなく

けれど二度となくなりはしない

手品師のポケットのように

そこから全てが生み出されてくる

そこから全てが生み出されてくる

だから

たとえ消えてゆくものであったとしても

ここで見せてほしい

あなたの言葉を あなたの口から

              ♪詩人は語る

子どもの情景コンサート公演記録

 

■2005.3.12 ピアノと朗読のひととき

於:京田辺商工会館

主催:NPO法人office AMATI

後援:京田辺市教育委員会・同志社女子大学音楽学会《頌啓会》

■2006.1.22 子どもの頃の情景

  ~ことば・絵・ピアノが奏でる~

  『四人会コンサートグループの世界』の公演より

於:京都府立府民ホール

主催:四人会コンサートグループ 

後援:京都府、京都市、京都府教育委員会、京都市教育委員会

    朝日新聞京都総局、京都新聞社、産経新聞京都総局、

    毎日新聞社京都総局、読売新聞京都総局

    同志社女子大学音楽学会《頌啓会》

    [京都府舞台芸術振興事業・次世代体験事業]